今回は【トリガーポイント】と【経穴(ツボ)】について解説してみます.
最初に書きますが,ある手術の操作中の研究では,筋膜に対する刺激はほとんど痛みを感じないと結論つけられています.
より深く痛みや体の構造から考察し直したため,今まで考えられてきたトリガーポイントの概念を覆す形になりますが,トリガーポイントの考え方に疑問や違和感を持っている人には読んでもらえればふに落ちる部分があるはずです.
トリガーポイントとは?
トリガーポイントの定義は,“筋硬結と関連がある,筋における非常に過敏なスポット”とされています.
この概念は1942年にJanet G. Travell医師によって考案されたそうです.
あくまでも概念でありイメージング研究でもトリガーポイントの存在は証明されていません.80年近く前の概念が,医学的な発展を迎えた今でもほぼ変わらずに存在し続ける事の影響力は非常に大きいと言えます.
トリガーポイントの一例を図示します.
1及び2の✘印を刺激すると対応する1,2の赤い領域に反応が現れる事を示しています.
経穴(ツボ)とは?
経穴は以下のように説明されています.
経穴 (けいけつ) とは、中医学、漢方医学、経絡学の概念で、身体表面の特定の部位に指圧、鍼、灸で刺激を与えることで体調の調整、諸症状の緩和を図れるとするものである。一般には「ツボ」とも呼ばれる。筋筋膜性疼痛症候群(Myofascial Pain Syndrome)におけるトリガーポイント(例えば腰痛の原因となる筋・筋膜内の好発部位)と大半が一致する。偽の刺激よりも真の経穴への刺激の方が効果は高い。” Wikipediaより
注目したいのは『トリガーポイントと大半が一致する』と言う事です.
西洋医学,東洋医学的な概念の差がありながらポイントの多くが一致すると言う事は,基本的な人の構造つまり解剖学に由来する物と考える方が妥当です.
トリガーポイントでは,その部分を何らかの理由で発生した筋硬結としていますが,基本的な構造物として考えれば,触知した物は筋硬結の類ではないだろうと言う事です.
このサイトで何度か取り上げていますが,論文【The tissue origin of low back pain and sciatica】の中で,”直接筋膜を刺激しても痛みは発生しないか腰痛の痛みより弱い痛みだった.”とされています.
但し筋膜でも刺激によって強い痛みを感じる部分があり,それは筋膜を血管や神経が貫いている部分なのです.
血管は柔らかいですが神経は体表から触れたときに索状物として感知出来ます.さらに神経であれば触知した際に神経支配に沿った関連痛が生じます.この関連痛はトリガーポイントの概念で外せない物です.
また,神経の通り道であれば,個々にノーマルバリアントはあるものの,ある程度一定の場所になります.
トリガーポイントと経穴で大半が一致するのは,この【神経が筋膜を貫いている場所】を刺激しているためだと考えられます.
上記の論文でも腰痛や坐骨神経痛の原因として挙げられていますが,引き伸ばされている神経や絞扼されている神経は刺激に対して鋭敏に反応し疼痛を生じます.
何らかの理由で神経が引っ張られていたり,締め付けられている状態にある神経が筋膜を通過する部分が,【トリガーポイント】や【ツボ】として表現されていると言う事です.
こう考えれば,トリガーポイントや経穴の大半が一致する事と全ての人が全てのポイントに痛みを生じるわけではないことも説明できます.
トリガーポイントの概念でなぜよくなるか?
トリガーポイントの捉え方が間違っていてもトリガーポイントの概念でアプローチ(トリガーポイント注射など)した結果,一定数で改善がみられます.
これは神経に対するアプローチになっているからだと考えられます.
神経が筋膜を貫いている場所にブロックをすれば神経の機能は停止するため痛みを感じなくなります.また筋膜での絞扼をリリースする事になれば圧迫や伸長刺激からリリースされるため症状が楽になるとも考えられます.
神経は,圧迫を受けたり伸長ストレスを受けていると刺激に対して痛みを感じます.
神経は液体に浸っている状態ですが,その液性に変化があり潤滑性が失われると物理的なストレスが発生しやすくなります.
神経周囲の液性は,神経の長軸の動きを繰り返す(Neural Flossing)と改善されると言われており,そのような操作をすれば物理的なストレスが減少する可能性があります.
ストレッチのような神経の長さを調節すれば伸長ストレスからも回避されます.
索状物として感じられる神経の通り道を,注射でリリースしたり,マッサージのような手技で神経の潤滑性が改善されれば痛みとしても改善されると考えられます.
このようにトリガーポイントという概念を,現在の解剖・生理学や東洋医学と照らし合わせる事で,トリガーポイントのより効果的な使用例が見つかるかも知れません.
概念だけを捉えたり,今ほど正確に人体の細部が分かっていない事もそのまま鵜呑みにせず,一度人体の機能に沿って考え直せばより結果につながるアプローチになるはずです.
アプローチだけにこだわらず,病態も考えるようにする事がより良い一歩になると考えます.
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